Jakarta
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ジャカルタ最後の夜、ホテルのバーで
ルピア暴落を嘆くバーテンに、ジョンデンバーを唄う。

カレー屋「Hazara」からCIPTAホテルまでは歩いてすぐである。帰ってもやることはないので、また階下のバーに飲みにいった。きのうの若いバーテンがいる。彼はどうやら人なつっこい性格らしい。今夜もすぐ話が始まる。

彼がなにやら音楽テープを出してきた。


「私は外国の音楽が好きだ」
「うん」
「ところが45日ごとに値段が倍になる。
もう、去年の秋に比べると倍の倍の倍に値段があがった」

半年ほどの間に価格が8倍になったというのだ。

「給料をもらったら早く買わないとまた来月には外国製品は倍になる」

なるほどなあ。自国で取れる米や鶏を食べている限りルピアの暴落は庶民にはあまり影響ないと思っていたが、乳児(ミルクは輸入)だけでなく、外国文化に憧れる都会の若者層にも影響が大きいのだな。ミルク暴動の後に学生が暴動を起こしたのもこういう不満が影響しているのかもしれない。



バーの片隅に小さなキーボードがあった。

「あれは誰が弾くんだ」
「私が弾く」
バーテンは胸を張った。
「お、弾けるのか」
「習ったことはないけどね」
「弾いてくれよ」

他に客がいなかったので、バーテンはおごそかにキーボードにかかっていた布を取り払った。リズムマシンを走らせてコードをちゃっちゃっと弾く。なるほど「習ったことはない」のは明らかだ。

「ふむふむ。
そのコードとそのコードの間は、こうやったほうがかっこいいぞ」
と、CからFに行くときにC7を入れるのを教える。
この程度のレベルである。

「おお、かっこいい!」
と彼はごきげんでC7を入れて練習している。とはいえ、リズムマシンに乗せてコードを鳴らしているだけなので、曲と言えるようなものではない。

「どんな唄が好きなんだ?」
「ジョン・デンバー!」
ジョンデンバーかあ、、ちょっと貸して、とあやしげな「カントリーロード」を唄う。バーテン大喜びである。


おお!もっとやってくれ。とジャックダニエルスを一杯奢ってくれた。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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