Sandakan
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船上のベッドで国境を越える。
これがデッキパッセンジャーというものか。

船上のベッド サンボアンガ港で出国手続きを済ませて乗船すると、デッキの上には予期しないものが待っていた。たくさんの 2段ベッドだ。
「あ、エコノミー客は船底じゃないんだ。甲板に寝るんだ」

船の縁に幅2メートルくらいの通路を残 すだけで、残りの場所はすべてベッドで埋められている。デッキパッセンジャー(「デッキ客」=「最貧乏客」)というのは初めての体 験だ。まず自分の寝場所を確保しなくては。

2段ベッドの上のほうが見晴らしはよいけれど下のほうが落ち着く。どのくらい揺れるかわからないので下のベッ ドにもぐり込む。船客がすっかり乗り込んでしまうまで自分の場所を主張していないと、他の人の寝床になって しまう。

鳥の夫婦の巣箱探しのようだ。


サンダカン行の船 上のベッドはちらほらと空いている。やはり下のほうが人気があるらしい。ベッドは、自衛隊のような緑色のビニ ール貼り。毎日潮風にさらされているのでべったりしているが、髪がひっつくというほどではない。一応は清掃さ れている。

とりあえずベッドひとつ分とは言え、船中に自分の場所を占有できた。「エコノミー」から想像していた よりも、ずっとよい待遇である。


小銭潜りの子供たち 出港時間が近づく。
数隻のアウトリガーで島の子供たちが寄ってくる。こちらを向いて「金を投げろ」というしぐさ をする。ときたま誘われて小銭を投げる客があると、子供たちは海に飛び込んでそれを取る。
うまいタイミングで飛び込めば潜ってすぐ掴むことができるが、水底まで沈んでしまったものはあきらめる。
古くから続いているアジアの出船風景だ。
みんな特にすることもないのでその情景をぼんやり見ている。

急ぐ必要はない。
どうせこれから30時間は船の中なのだ。


タグボート タグボートが船首に綱を結ぶ。
マニラロープの綱は海水を含んで重くなり、
大粒のしずくを海面に滴らす。
引き綱がぴんと張りフェリーを牽引し始めると
タグボートはぐいと傾き、
いまにも船べりが海面に沈みそうになる。


c 1998 Keiichiro Fujiura


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