Solo
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言葉の通じないホステスとカラオケを眺め、
ホテルで従業員のブンガワンソロを聴く。

ディスコ「Legend」の一角はなんとなく物騒な感じだった。

灯りも暗いし、道の脇にはうずくまっている連中がいるし、道をふさぐようにクルマが止っていて物陰は多いし、ちょっとヤバい感じ。できるだけ道のまんなかを歩く。


10,000rp(142円)の入場料を払って中に入ると、まんなかにダンスフロア。まわりにソファ。フロアで踊る女たちは水っぽいし、男は誰も踊っていない。ははあ、これはそういう店か。ダンスフロアで踊る女を選んで一緒に飲むのだろう。飲む以上のことがあるのかどうかは、わからない。

入り口の近くにカウンターがあったので座って「酒はあるか」と聞く。バーテンが無言で背後の黒いカーテンを曵くと、酒の棚が現われた。こりゃおもしろい。まるで禁酒法時代だ。

ウイスキーを飲んでいると、店のママが近づいてきて女の子を選べという。

押し付けられた女の子と2階に上がると、そこはボックス席になっていて大きなカラオケスクリーンがあった。どうもこれ以上のことはないらしい。それはいいのだが、まったく言葉が通じない。
普通にホステスと飲んでいる状況なので、話ができないとどうも間が持たない。しょうがないので、まわりの人が唄っているインドネシア語のカラオケをぼんやり見ている。

女の子も話ができないので間が持たない。マッチを持って、身振りで
「ええと、煙草に火を付けましょうか?」
「喫わない」

会話が弾まないことおびただしい。そのうちママがやってきて「なにか頼んでもいいかしら?」

ところが女の子もイスラム教徒なので酒を飲まない。オレンジジュースかなんか頼む。目一杯高く付けているのだろうが、なにしろ酒は高いからそれに比べれば、伝票を見てもなんてことはないのであった。


DANAホテル こうして「楽しめ」の一刻は過ぎた。

ホテルに帰ると中庭の向こうで唄っている声がする。行ってみるとこのホテルのボーイたちが集まって騒いでいるのであった。

場所は従業員の控え室。寅さんの隣の工場で労働者が集まって唄っているような格好である。

ギターが一本ある。ちょっと貸してくれ。ああいいですよ、日本の歌をやってください。日本の歌?こういうときに急にやらされるとへんなものでなんにも出てこない。

「五木の子守り歌」なんか唄ってしまう。もう少しましな歌もありそうなものだが。

彼らに「ブンガワンソロ」をやってくれと頼む。なんだかそれらしいような、そうでないような歌だった。

これが原曲なのかもしれないし、彼らは若くてそんな古い唄をよく知らないのでうろ覚えで唄ったのかもしれない。その他の新しいインドネシアの歌はなかなか面白かった。


じゃましたな、とチップを少し渡して部屋に帰る。ソロはなかなか楽しかった。明日はヤマモリさんと約束しているジョグジャカルタだ。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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