Good Morning Blues
The Midnight Special
ザ ミッドナイト スペシャル
(Traditional)

カントリー・ブルース、フォーク・ブルースの黎明期を代表する名曲です。作者は「Traditional」となっています。「Public Domain」となっていることもあります。

しかしLeadbellyのアルバムでは作者は「Leadbelly」となっています。彼が作ったのだが著作権のことなど知らない頃だったのでこうなったのか。それともどこかで覚えた曲を「自作だ」と言っているのか(ブルースにはよくあります)。どちらが真実か私にはわかりません。しかし多くの人がこの曲をLeadbellyの作と認めていることだし、自作の可能性は高いように思います。

もしこの曲が旅の途中で聞き覚えたものであったとしても、それを世に広めたのはLeadbellyです。彼は1888年生まれ(別説も有る)ですが、その時代の人としては非常に多く、この曲の録音を残しています。ひとりでゆったりと唄ったもの、コーラスを加えて賑やかなもの、さまざまな録音があって、人々がこの曲を彼の代表作としてとても好んだことは疑いありません。

コード進行は、ワンコードの曲を除けばこれ以上ないほど単純なものです。Aメロもリフレインも同じコード進行で、後世の曲のような工夫はありません。次のような8小節を繰り返します。

||G|G|D|D|A7|A7|D|D||

※ 正確に言うとリフレインの7小節めは |A7/D| とコードが変るタイミングが2拍遅くなっていて、この「解決がちょっと遅れる」というのがいい味になっています。

Leadbellyがひとりで演るときは、親指でベースランしながら残りの指でリズムの裏を刻むスタイルを取っています。当時としては画期的におしゃれな奏法だったはずです。

この曲は「監獄ブルース」の代表作といわれることがあります。歌詞を読むと監獄(通称「シュガーランド」)の描写であることが伺えます。それを想定して、下の訳では原文にない言葉も若干加えて意訳しました。

印象的なリフレインの「Let the Midnight Special shine light on me」を「夜汽車よ俺の窓を照らせ」と訳す人もいます。獄中と考えるとそれも納得できる解釈です。

寂しい牢獄の真夜中。小さな窓に突然灯が差し込みます。線路と建物の位置関係で、夜汽車の光が獄内に入ってくるのです。もちろんそう明るいものではないでしょう。しかし列車の駆け抜ける音は夜の静寂を越えて伝わってきます。

あの列車はいま自分が最も欲しているもの「自由」を運んでいるのだ。夜毎に差す汽車の灯は獄中での大きな歓びであると同時に外の世界への焦燥を掻きたてるものでもあったでしょう。

私がこの曲を初めて聴いたのは70年代の初頭。友部正人が弾き語りで唄ったものです。歌詞は彼の翻案した日本語訳。彼が加わった武蔵野タンポポ団がこの歌詞での録音を残しています。ひとりで演るときはキーはAで、3度ハモで動くスライドっぽいリフを付けていました。

私が福岡の大学時代、地元の小さな呼び屋でバイトしていたとき、友部正人の福岡ライブが開かれました。なぜか二人だけで打ち上げすることになり、中洲の安い店でアルマイト鍋の湯豆腐を一緒につつきました。もちろん彼はそんなことは少しも覚えていないでしょう。

少し飲んだ後、彼は「ストリップに行く」と言って別れました。この吟遊詩人とストリップの組み合わせが意外なようにも一種似つかわしいものにも感じられて、ひどく印象的だったことを覚えています。

歌詞の話をしましょう。冒頭を文字どおり訳せば「朝起きるとでかいベルが鳴るのが聞こえる」となりますが、刑務所のことだし「どでかいベルの音で叩き起こされる」と解しました。このベルはたぶん柄付きのハンドベル。いまでは福引くらいでしか見ないアレを、寝てるところに鳴らされたらやかましくてかなわんと思います。

ヒューストンという地名はNASAの地上基地で知られていますが、テキサス州南東部、ルイジアナ州に近いあたりにあります。テキサスというと西部/砂漠という印象があるかと思いますが、テキサスは非常に大きな州で、ヒューストンがあるのはニューオリンズから真西に300マイル(480km)、ほとんど南部といってもいいあたりです。ちなみにLeadbellyはルイジアナ州「Mooringsport」という町の生まれですが、ここは州境に近く、ヒューストンへも遠くありません。

今日のヒューストンはビルが立ち並ぶ大都市です。その原因となった油田が発見されたのが1901年のことですから、Leadbellyが若者のころは田舎の町が突然オイルラッシュに沸き立ち、一攫千金を狙う山師やならず者、それを相手にする女たちが集まった、さぞかし刺激的な町だったろうと想像します。

シュガーランドはヒューストン近郊の町で、現在でもここにテキサス犯罪司法庁が管理する550人収容の「精神治療施設」が建っています。以前は「TEXAS DEPARTMENT OF CRIMINAL JUSTICE」のページに監視塔の写真が掲載されていて、それはなかなかの迫力だったのですが、編集が変わって見れなくなりました。

Sugerlandといえば、スティーヴン・スピルバーグが1974年に作った「The Sugarland Express」という映画があります。いかにもこの曲から影響を受けたようなタイトルだと思いませんか。家族のために監獄破りをするというストーリーです。

「stagger」は「ふらつく」「千鳥足になる」、「carry down」は「引きずっていく」、「grieve」は「心痛する」「ひどく悲しむ」、「whoop」は「叫ぶ」、「holler」も「叫ぶ」「どなる」です。 「a-cryin'」という用法はボブディランの「Time's a-changin'」での例が有名ですが、「泣き続ける」の古風な言い方です。

「piece of paper」が何のことを言っているのか、私にはよくわかりません。「captain」はなにかの「長」なのですが、何の長なのか確定できません。

どちらも「Miss Rosieが何者であるか」に関っています。傘(日傘でしょう)を指している様子から、最初はお嬢さんかと思っていました。地元の慈善家の娘(明日のジョーにおける白木葉子みたいな人)か、所長の娘あたりかと想像したのですが、しかしそういう人が「私も恋人が欲しい」などと蓮っ葉なことを言うでしょうか。

まったくの想像なのですが、ロージィさんは所長たちの炊事をしたり洗濯をしたりするメイドなんじゃないかという気がします。彼女は外の道をやってきます。肩に傘を差して、手には一枚の紙を持って。この紙は門を通るための証明書でしょうか。

彼女が「自分も恋人が欲しい」ともらす相手は、本当は女性(例えばメイド頭)のほうがふさわしいようにも思いますが、上記のように確定できないので、ここでは「captain」は「看守長」としておきました。看守長が目下の相手に軽口を叩いている姿を思ったのです。
「ミスロージィ、あんたも年頃だが、結婚相手は決まっているのかね」
「それが誰もいないんですよ。あー、私も恋人が欲しいわ」
というような会話を、主人公は聞いたんじゃないでしょうか。

すでにお分かりだと思いますが、これらの解釈はすべてフジウラが自分でこの曲を唄うために想像しているものでなんの裏付けもありません。信憑性はなにもないことをご了解ください。また引用するときはとりあえずご連絡ください。無断で引用されると私自身がそれを信頼できる情報と受け取ってしまうこともありえます。

「I know her by her apron」の「know」は「知る」というより「識別する」「認識する」でしょう。「エプロンを見ただけで彼女だってわかる」というのです。辞書的に言うと「A tree is known by its fruits.」(実を見れば何の木かわかる)という用例があります。

「special train」は「臨時列車」です。定期便ではない列車を必要に応じて深夜走らせていたのでしょう。貨物列車かもしれません。もっとも放浪者たちにとって貨物列車は客車のようなものです。深夜なので各駅に停まるわけもないし「深夜急行」と解してもそう間違いではないと思います。

多くの人にカバーされています。カントリーの人が多いのですが、ハリーベラフォンテやジョニーリバースなどのポップス系歌手も唄っていますし、リトルリチャードやCCRもカバーしています。スペンサーディビスグループやテンイヤーズアフターなどなど初期のロック系の人もとりあげています。もちろんブルースマンも唄っています。比較的新しい録音ではオデッタのものが素晴らしいと思います。

そういえばクォーリーメンというジョンレノンが初めて作ったバンドを再現したCDがありますが、その中でもこの曲を演っています。ポールマッカートニーのロシア録音「CCCP」は彼のルーツを集めたような選曲ですが、そこでも演奏されています。案外ビートルズもハンブルグあたりで唄ったことがある曲なのかもしれません。




The Midnight Special

深夜の臨時列車
Well, you wake up in the morning
hear the big bell ring
You go marching to the table
See the same dam'n thing

ウェル 朝はやかましいベルで
叩き起こされて
食堂のテーブルへ行けば
いつも非道いありさまだ
Well, it's on-a the table
knife and fork and a pan
If you say a thing about it
You're in trouble with the man

食卓の上には
ナイフとフォークと鍋だけ
そいつに文句を言おうもんなら
看守にどやされる
Let the Midnight Special
shine her light on me
Let the Midnight Special
shine her ever loving light on me

深夜を走る鉄道よ
その光を俺に照らせ
深夜の列車よ
その愛しい光で俺を照らしてくれ
If you ever go to Houston
you'd better walk right
And you better not stagger
and you better not fight

ヒューストンに行くことがあったら
道では行儀良くしたほうがいい
千鳥足になっちゃいけない
喧嘩もしちゃいけない
Cause the sheriff will arrest you
and he'll carry you down
And you can bet your bottom dollar
you're Sugarland bound

なぜって保安官がすぐにあんたを逮捕して
連れて行ってしまうだろう
最後の1ドルを賭けてもいい
あんたはシュガーランド行きだ。
Let the Midnight Special
shine her light on me
Let the Midnight Special
shine her ever loving light on me

ああ 夜汽車よ
俺を照らしてくれよ
深夜急行よ
その素敵な光で照らしておくれ
Yonder comes Miss Rosie
tell me how do you know ?
I know her by her apron
and the dress she wore

あそこをミスロージィがやってくる
あの娘のことを知ってるかい?
俺はエプロンやドレスを見ただけで
彼女だってことがわかるんだ
Umbrella on her shoulder
piece of paper in her hand
Well, I heard her tell the captain
"I want my man"

肩には傘を差しかけ
手には一枚の紙を持っている
彼女が看守長に言っているのを聞いたぜ
「私もいい人が欲しいわ」ってね
Let the Midnight Special
shine her light on me
Let the Midnight Special
shine her ever loving light on me

夜汽車よ その光で
おいらを照らせ
深夜を駆ける機関車よ
愛しい光で俺を照らしてくれ
Lord, Thelma said she loved me
but I believe she told a lie
Cause she hasn't been to see me
since last July

神よ テルマは俺を愛していたというが
それは嘘に違いない
だってあいつは去年の7月以来
俺に面会に来ないんだ
She brought me little coffee
shie brought me little tea
She brought me nearly everything
but the jailhouse key

彼女はコーヒーを少しくれた
彼女はお茶を少しくれた
彼女はほとんど何でもくれたが
監獄の鍵だけはくれなんだ
Let the Midnight Special
shine her light on me
Let the Midnight Special
shine her ever loving light on me

深夜の列車よ
俺を照らせ
深夜急行よ
その愛しい光で俺を照らせ
I'm goin' away to leave you
and my time it ain't long
The man is gonna call me
and I'm goin' home

もう行かなくちゃならない
時間はあまりないんだ
看守が俺を呼びに来て
俺は独房に帰るのさ
Then I'll be done all my grievin'
whoopin', hollerin' and a-cryin'
Then I'll be done all my-studyin'
'bout my great long time

そこでおいらは悲観して
どなり、叫び、泣き続け
そして ずっと考えるのさ
俺のここでの長い時間を
Let the Midnight Special
shine her light on me
Let the Midnight Special
shine her ever loving light on me

ああ 夜を駆ける列車よ
俺を照らせ
夜汽車よ
愛しい光で俺を照らしてくれ


CD
Leadbelly
Pete Seeger
The Midnight Special


レッドベリー
ピート・シーガー
友部正人

楽譜
Leadbelly
Pete Seeger
The Midnight Special



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