Baduy
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囲碁と川便所のバドゥイの夜。
どこも漆黒の闇に満ちていた。

夕食にはこの家の女主人ナシナ夫人も同席した。これはバドゥイとしては非常に珍しいことらしい。御主人が留守なので異国の旅人に敬意を払ってくれたのだろう。夫人は高齢そうだが、細身で上品な雰囲気を持った女性である。

ロウソクの灯りで眠る 夕食が過ぎると、あたりは真っ暗になってきた。家の入口に小さな灯油ランプをひとつだけ下げてある。これも黒バドゥイだけで、白バドゥイの戒律はランプを使うことを許さない。

もうあの三人は家に着いただろうか。それともまだ山道を歩いているのか。山奥の白バドゥイの村は真の闇であろう。


持ってきたアイスボックスの中のビールを飲み、この暗闇と静けさにしばし浸る。竹で編んだ床の下を風が吹いていく。地面に蚊取り線香を立ててあるので、しごく快適である。


ヤマモリさんと私はランプの光を頼りに囲碁をはじめた。暗いことは暗いのだが、目が慣れてみるとそれなりに打てる。
「バドゥイの村で碁を打ったのは私たちがはじめてだろう」
「これからだっていませんよ、そんな人」
この対局では2敗であった。通算5勝3敗だ。



夜更け、といってもまだ9時くらいだろう。トイレに行きたくなった。人目がないのを幸い、バドゥイの「川のトイレ」に行ってみることにした。


小さな携帯ランプを持って、河原へ降りる細い道を探って行く。短パンと下着を岩に置いて流れに入る。真っ暗なので滑ったら大変だ。川上に向かって水に尻を降ろすとけっこう冷たい。夜の川である。


流れがけっこう速い。さて、川上を向くものだろうか、川下を向くものだろうか。尾篭な話で申し訳ないが、こういう話題なので勘弁していただきたい。「小」のほうなら迷いなく川下に向かって放つのだが、「大」だとどうなのだろう?

たぶんこんな感じかな、と川上を向いておこなうことにした。水流が股間を通り過ぎていく。半身沈めているだけなので、それほどの水圧はない。


脱糞した瞬間に、手も触れることなく排泄物は流れ去る。思っていた以上に爽快感があった。社会としては衛生的でないシステムだろうが、本人の生理としては非常に清潔な感じがする。


スラバヤで見た、川に尻をつけていた男もこの清潔感が忘れられなかったのだろう。インドネシアのトイレが紙でなく水を離せないのも、こういう原体験があるためかもしれない。


バドゥイの川に尻を沈めながら、そういうことをとりとめなく考えた。もう、蛍は灯を消している。




c 1998 Keiichiro Fujiura


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