Chiang Mai
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町中停電の夜、蝋燭灯りで飯を食う。
女の子ふたりは風呂に入りに部屋まで来る。

夕方、嵐になった。ホテルは停電になり外国人観光客は不安そうな顔をしてロビー に集まっている。窓枠が壊れていて窓を閉めても雨水が部屋に入り込むのでボーイ を呼んで部屋を換えてもらう。こんどは中庭を見下ろす部屋である。

そうだ。なぜこのホテルに泊まりたかったかを話さねばならない。 このホテル、正確な名称で言えば「インペリアル メイピン ホテル」は、テレサテンが息を引き取 ったホテルなのである。

まだ若く才能のある香港の歌姫がなぜこのようなタイの地 方都市ホテルで死んだのか私は詳しいことは知らない。しかし、どうせチェンマイ に行くのならメイピンに泊まろうと思っていたのだった。

日が暮れても嵐はおさまらない。窓から見る町は暗い。まだ停電が収まっていない ようだ。


6時にエリとマミホを迎えに行く。メイピンからBANANAまでトゥクトゥクで40B(120円)。ガ イドブックに乗っていたSRIPENという店が休みだったので、代りに近くのスリラン カ料理店に行った。

町中が停電なので店が開いているかどうかもよくわからない。声をかけると建物か ら大きな傘を持ったボーイがやってきた。蝋燭(ろうそく)と大きな傘に包まれて スパイシーな料理を食べる。

その雰囲気のせいか、とても美味しく感じられる。スリランカ料理とはこんなに美 味なのかタイ風にアレンジしているのか観光客向きにあわせているのか、ともかく うまい。料理は三人分で420B(1260円)だった。

猫も昼寝する 娘二人は関西弁でBANANAについて不満を言う。どうも「ゲストハウスに泊まる」というこ との現実を理解していなかったようだ。聞けば初めての海外旅行だという。それ でチェンマイのゲストハウスではしんどいに違いない。日本の常識が世界に通じる とでも思っていたのだろう。

口々にBANANAのトイレが汚いと文句を言いはじめた。私は見ていないが、そもそもアジア のトイレなのだから汚いのが当たり前だ。「あんなとこじゃできない」という ので「じゃあ、メイピンの部屋のを使えば」と貸すことにした。

ホテルのバスルームにバスバブルがあるのを見つけて「初めて見る」というので、 お湯に入れて泡を立ててやるときゃあきゃあ言って「入りたい」という。二人いる という安心からなんだろうが、きわめて無防備だ。

二人は交互に風呂に入るので、そのあいだ残りのひとりと酒を飲みながら話す。湯上がり の娘と差向いで飲むのは乙なものである。

BANANAの他の客の様子も聞いてみると、この娘たちだけが素人というわけでもなく 地球の歩き方をまるごと信じた関西人が集まる店らしい。ゲストハウス主催のツア ーもあって、日本人が集まって行動しているらしい。トレッキングもあるというの だが、マラリアの話をしたら行くのを怖がっていた。だいいち雨具も持っていない のである。しょうがない旅人だ。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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