Kuala Lumpur
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街角で女性に声をかけられ、
ありがちな手と知りながらそれに付いて行く。

時刻は午後3時くらいだ。中華街の近くにヒンドゥ寺院があるというので見物にでかけることにした。

信号を待っていると一人の女性から話しかけられた。30代後半、とくに美人でも不美人でもない。


「どこに行くの」
「ヒンドゥ寺院」
「え?あなたヒンドゥ教徒なの?」
「違う。見に行くんだ」
「どこから来たの」
「トウキョウ」
「トウキョウって?」
「日本」
「あら、日本人とは思わなかったわ」

と、無理矢理に会話が始まる。

「私はいま香港で働いていてここは故郷なの」
「ふうん」

まあそこまでは自然な展開と言えなくもないが、そこにもうひとり女性が現われる。最初の女より少し若く少し細めだ。

「私はエミィ、この娘はシンディ」
「こんにちわ」
「彼女の妹はもうすぐ日本へ行く。なにかインフォメーションを与えてほしい」

「妹の住んでいる家はここからすぐ近く、タクシーで6RM(214円)くらいだ。一緒に行こう」というのである。


もちろんこれは怪しい話だ。しかし、悪いことに私はこういうのが大好きなのである。ひそかに手持ちの金を勘定した。

貴重品はなにも持っていないし現金も少しだけだ。まずいことにクレジットカードを持っているが、「最大の損失」としてこの金を全部渡すくらいならたいしたことはない。クレジットカードさえ見せなければ大丈夫だろう。


私は返事した。

「いいよ。彼女の家へ行こう」



c 1998 Keiichiro Fujiura


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