Kuala Lumpur
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勝ち逃げはできないものか。
それとも危うきに近寄らずか。

さて、どうしよう。手口はわかったのだから、勝ち逃げはできないものか。最後の勝負で降りて勝ち逃げすることはできないかな。いや、それでは帰してくれないだろう。 大勝負になったところで「金を取りに」ホテルに帰り、そのまま、これまでの勝ち金を持って姿をくらますなんてのはどうだ。

しかし、こいつらの大金を全部奪っても高が知れている。日本人にとってはわずかな金額が彼らにとっては死活問題である。小銭を狙って危ない目にあってもしょうがない。

叔父さんの必至の説得にも関わらず、私はぬらりくらりと「いやー、ギャンブルには興味ないんですよ」と答え続けた。部屋の空気がだんだん白けてくるのがわかる。けっこう気まずくて、「やる」といえばすむことはよくわかるのだが、こうなればこっちも意地である。


遠くで雷がなった。それをきっかけに「じゃあ 雨が降りそうだから帰るよ」と言ったら、一同ちょっとほっとしたようだ。

「妹」なるものはついに現われなかった。何歳って言ったっけ。19歳?

もっと引き止められるかと覚悟していたが、案外あっさりと離してくれた。たぶん見切りをつけて別なカモを探しに行くのだろう。


「妹の東京の住所を教えてくれ」
私は依然とぼけて聞く。
「ホテルの部屋は何号室?後で妹を連れて行くわ」
むちゃくちゃ不自然な答えである。

私はひとりで家を出た。白いペンキ塗りの、なかなか瀟洒な一戸建てだった。

住所をメモして届けることもできたが、それはしなかった。私は実害を受けたわけではないし、来るときのタクシー代も彼らが出した。インスタントラーメンも食べさせてもらった。

それになによりも、私はこういう連中が嫌いではないのである。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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