Narita
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片道だけの切符を持って、
ともかくも旅は始まる。

持ち物の中にあった「周遊航空券」は、見せるために借りて行くもので使う気はなかった。実際1枚も使わずに持って帰ってきた。なんでそんなものが要ったのか。

話は東京でのビザ取得にさかのぼる。ほとんどの国では
  1. 日本人が
  2. 短期滞在で
  3. 大都市から入国
した場合、ビザを必要としない。
しかし私は長期滞在に及ぶ可能性があるし、小さな町から出入国するつもりなのでビザが必要だ。

他の国は現地で取るとして、最初のフィリピンだけは東京で取っておこうと大使館へ出かけた。普通は旅行代理店に頼むのであろうが、現地で自分でやらなくちゃいけないから練習のために自分で行った。 すると、ビザが発行されなかったのである。

理由は、私が入国チケットしか持っていなかったからだ。出国チケットを持っていない外国人は仕事目的以外では入国させない、だからビザは出せないというのだ。

「いつ帰るかわからないから、帰りのチケットは向こうで買いますよ。」
「ダメです。」
「なんでダメなんです。金を持っていることの証明ならしますよ。」
「ダメです。」
「なんでダメなんですか。」
「それが規則だから。」

というわけでそれがルールなのだった。 しかたがないので、なじみの旅行代理店と相談して、行く予定の国を回る周遊チケットを作ってもらった。けっこう高い値段のものになったが、1枚も使わずに帰ってくれば手数料5000円で買い戻すという約束をした。なくさなければ、この券を5000円で借りたということになる。

付記:実際には現地の入国管理で帰りのチケットの提示を要求されることはなかった。いちばん心配していたのはシンガポールだったが、ジャカルタから航空便で入ったのでトラブルはなかった。しかし、それはあくまでも「現場がルールに忠実でなかったから」であって、たまたま勤勉な入国管理官に出会った場合このチケットは役に立ったのかもしれない。せっかく用意したのに、ちょっと残念な気もする。

これを使ってフィリピンのビザも無事に取った。予約したのはマニラの最初の夜のホテル一泊だけ。持っているのは行きの片道チケットだけ。それもパキスタン航空の最安ディスカウントチケットだ。これで準備は整った。あとは出発するだけである。


c 1998 Keiichiro Fujiura


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