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ようやく霧も晴れてバリクパパン空港を発ったボロック航空の中型プロペラ機は、ほどなくウジュンパンダンに近づいた。左右の岬に挟まれた深い渓谷のような湾の上で、飛行機は高度を下げていく。細い入江を奥に入ると波は徐々に静かになる。天然の良港だ。ウジュンパンダンは古くからの貿易港として知られ、東インド会社の重要都市のひとつである。 なんのテーマも持っていなかった今回の旅も、サンボアンガ、サンダカン、タワウと港町を旅するうちに「東南アジア植民地時代の主要な貿易港はみんな見てやろうか」という気になってくる。 ウジュンパンダン空港は小さい。国内線なので手続きも簡単だ。インフォメーションで手頃なホテルの名を聞く。 |
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BUANA HOTELはアカシヤの並木道にあった。白い平屋のくたびれたホテルだ。入り口に竹編みの椅子が並んでいて、男たちがそこに座ってぼーっと道を眺めながら暑気をしのいでいる。気に入った。ブルースが聞こえてくるような光景だ。 |
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ところがまったく言葉が通じない。ホテルなのに英語をしゃべれる人がいない。料金だけはタイプで打たれた料金表でわかった。朝食付きで50,000Rp(710円)と70,000Rp(994円)。どちらにしても大した金額ではないので7万ルピアの部屋にする。 ここもクレジットカードが使えないので、手まねで「出発時に払う」と伝える。ルピアの現金はほとんど持っていない。タラカンでは手持ちのリンギットをルピアに替えただけなので、もうまったく残っていない。 金曜日の午後である。急いで銀行に行かなければ見知らぬ町で一文無しになってしまう。 |
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言葉が通じず道を聞けないので、賑やかなほうへ歩いてみる。ホテルから数軒先が四つ角になっていて、そこにスーパーマーケット「SENTOSA」があった。試しにそこのレジに道を聞いてみたが、やはり英語は通じない。なんとなくこの四つ角を右に曲がると町があるような感じがする。 食堂があった。腹が減っているがいまは飯を食っている場合ではない。早くしないと銀行が閉まってしまう。 |
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しばらく歩いていくと公園があり、道は公園を迂回しているのでその先の見当がつかない。なんだか淋しいところだが、もう引き返しても遅い。ままよと歩いて行くと、公園の先に銀行が見えた。EXIM BANKである。ああ、助かった。 さすがに銀行は英語が通じたのだが「円からの両替はしない」という。もう2時55分だ。銀行のシャッターは半分閉まっているし、他の銀行を探して歩く余裕はない。私が外に出るとすぐ閉められてしまうに違いない。そのうえドルの読み取り機械がなぜか私の持っていた20ドル札を読んでくれない。しかたなく小額紙幣を集めて60USドルだけ両替する。1ドル6500Rp、60ドルで39万ルピアであった。(この時点では知らなかったが、ひどいレートだった。なにしろまともな両替屋に行っていないので相場がわからない)。 ともかく当座のルピアは入手した。ようやくこれで飯が食える。 |
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