Ujungpandang
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東京の友人に金を借りることにし、
ジョグジャカルタで会う約束をする。


ウジュンパンダンの寺院
話は変わるが、私の東京の友人にヤマモリさんという人がいる。友人というより先輩である。彼はアジア交流団体の理事をしていてアジアにはめっぽう詳しい。先日もインドにカメラマンと出かけて、写真集を上梓されている。「今度はそのカメラマンと一緒にインドネシアを撮りに行くから、滞在中に会いましょうか」と誘われていたのだ。

待ち合わせの場所はジョグジャカルタというだけで、詳しくは決めていなかった。そのためにそろそろ東京に電話をしなければならない。

手持ちの現金もさみしくなってきている。クレジットカードは使えないし、キャッシングする場所も見つからない。しかたがない。ヤマモリさんにお金を貸してもらうことにしよう。



ホテルの部屋からは電話がかけられない。ロビーにINTERNATIONALと書いてある公衆電話があったが、カード式でコインは受け付けない。

フロントに「この電話機のカードを売ってくれ」と手まねで言うと、手を横に振る。「カードはここにはない」ということらしい。うーん。日本の常識で計ってはいかんことはわかるが、電話があったらカードは必要だと思うけどなあ。

困った顔をしていると(怒った顔に見えたのかもしれない)ホテルの人が外を指差す。それに従って行ってみるとホテルとスーパーマーケットの間に小さな電話局があった。


ウジュンパンダンの寺院 その電話局ではKDDのクレジットカードが使え、なんとかヤマモリさんと話ができて待ち合わせの日時も決まったし金も借りられることになった。

ホテルに帰って入り口の竹網椅子に座ってビールを飲んでいたら、へんな小男が近づいてきた。「どこから来た?」しかも突然、この男は英語で話しかけてくるではないか。「トーキョーだ」。小男はしきりといろいろなことを言うが、つまるところは「俺をガイドに雇え」「ガールフレンドを紹介してやる」ということらしい。この町でただひとり言葉が通じるやつはポン引きであった。それにしてもひねこびた顔の男である。話していると、思ったより年が若そうだ。少年のようにも見える。

名前は、サラムとかサムといった。英語を話せるのはこの男だけなので本来なら重宝するはずなのだが、とにかく表情が落ち着かない。目玉はいつも不安定にぐるぐる動いているし、しょっちゅう唾を吐く。危ないクスリをやってるんじゃないかという印象なので、あんまりお近付きになりたくない。


夕刻そいつがまた近づいてきたので「どこか魚のうまいレストランを教えろ」と聞いてみた。「それならTAMAN RIAがいい」「地図を書いてくれ」。そいつの地図はえんえんと細長く続いている。かなり遠いらしい。そんなところまで歩けるものか。「案内してやろう。そのかわり俺にもビールを飲ませてくれ。」それは来ればオゴるに決まっているのだが、どうもこの男の「おごってくれ」が気に障った。「いや、一人で行く」とタクシーに乗りこむ。

もちろん運転手に言葉など通じない。ただ、その店の名を言うのみである。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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