Yangon
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ハイヤーの運転手は通貨の闇交換をすすめる。
ホテルマンはやたらと今後の予定を知りたがる。


空港からホテルまでの道は二車線で、けっこう整備されていた。

タクシーの運転手はどこの国もおしゃべりが多い。例によってここでもしきりに話しかけてくるが、疲れているのであまり応対したくない。ホテルまでの道に名所があるというのだが、観光などする気はない。

「チャット(人民貨)の闇交換がある。レートが得だ。やらないか。」と言い出した。知らない男がこういうふうに親切めかして、しかも積極的に言うときは、基本的に相手にとって利益があるものだ。とはいえ少し人民貨も欲しいのでその取引きに応じることにした。


街角の風景。自転車もロンジーで乗る
ハイヤーは郊外の商業地のようなところに止った。

一緒にクルマを降りようとすると「外国人は入れない」とドライバーがそれを止める。自分だけで行くから車内で待てというのだ。あやしくてしょうがない。クルマを残しているから持ち逃げはあるまいが、途中で何枚か抜くくらいのことは平気でやるだろう。

いくら両替するかと聞くので「200ドル」と答えると、ひどく不満そうな顔をした。「レートはとても有利だ。もっと両替したほうがよい」「いやそれだけでいい」と言うと、やれやれという顔をしてFECを受け取り建物の陰に入っていった。

しばらくして戻ってきた彼の手には44,000K(チャットはKと書く)があった。1対220、公称の1対6とは全然違うが、これでもまだまだ抜かれているのだろう。


ホテルに着いた。空港もそうだったが女性の従業員が多く、しかも人手が余っているようだ。狭いフロントに5人も6人も立っている。一泊60++だがいまは50%オフ、税サービスを付けて一泊4,000円くらいである。現地では大変な金額に違いない。

フロントでチェックインするとき「明日はどこへ行くか」と質問された。以来ずっとそうだったが、ミャンマーにいる間じゅう「次の予定は」と質問されていた気がする。これはなんだろう。一種の監視だろうか。

なんの予定もなくミャンマーに来たのでなんの考えもなかったが、その場にあった観光パンフを横目で見て「ここに二泊して明後日はマンダレーに行く」と答えてしまった。

すると「飛行機は予約したか」と聞いてくる。
「まだだ」
「何時の飛行機に乗るか」とさらに時刻表を出してくる。

寺社の暗い階段から外を見る 別にここで予約する気もないのだが、なにしろ初めて来た国なのでよく事情がわからない。まだ町にも出ていないので、旅行代理店があるものかどうかもわからない。「後にする」と言えばよかったのだが、ついこのテンポに乗せられてしまった。
「えーと、ではこのフライトを予約してくれ」

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ようやくチェックインが終わった。汚い荷物をボーイが丁重に運んで「この部屋はニホンジンが好みます」と案内された。なるほどそうだろうな。重厚な木のドア、広い室内、窓の外は石造りのテラス、豪華な風呂。昨日までの扇風機と寝台だけの部屋とは大違いである。


この部屋を見て、考えが変った。しばらくここで休養しよう。

疲れているときは気分がころころ変る、というのもあっただろう。フロントに電話して「先ほどのマンダレー行きはキャンセルしてくれ」と告げる。

キャンセルは無事にできたが、これ以来フロントの女性たちが私のことを「気まぐれな男」と思ったらしい。なにか頼むたびに「また変更?」という顔をするし、なにやら薄ら笑いを浮かべている。この薄ら笑いがミャンマー女性の特徴なのか、それとも私だけに向けられたものかは、わからないのだが。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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