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ボロブドゥールは案外淡白に、開けた丘の上に立っていた。 「私がはじめて来たときには」と言うヤマモリさんの話では、そのころは 「ジャングルの中に遺跡が忽然と現われるような場所だった」。 それは感動的だろうな、と思う。いまではすっかり整地されていて周りは公園のようになっている。 |
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遺跡近くに管理事務所がある。そこにクルマを停めて、まずはおおまかな下見をする。大遺跡のわりに観光客はあまり多くない。地元の女の子が遊んでいたので遺跡をバックに写真を撮ったりする。 ボロブドゥールの壁面レリーフは一枚一枚表情が違っていて見飽きることがない。仏像らしいが頭部がない彫像も多い。顔だけ持って行かれてしまうのだろう。 |
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まわりは森で、水分が多いのか空の色に微妙な色合いがある。いや、雨が近いのだ。遠くで雷が鳴っている。こんな剥き出しの場所でスコールに逢ってはたまらない。少しばかりいた観光客もばらばらといなくなってしまった。 |
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雨が落ちてきたかと思うと急に強くなる。私たちは管理事務所に入った。ドンさんが係員となにか話している。特別許可の交渉をしているのだ。 |
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するとヤマモリさんが「一局打ちますか」とにこにこしている。「あるんですか?」「ありますとも」とクルマに行って碁盤と碁石を持ってきた。携帯用の磁石盤だ。 世界遺跡を借景にしての対局だ。豪気なものである。 |
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ボロブドゥールの係員の顔に好奇心が浮かんだ。珍しそうにちらちら眺めている。そのうち近づいてきて、しばらく盤面を見つめたあげく「さっぱりわからん」と苦笑いする。 「どっちが勝っているんだ?」 ヤマモリさんは渋い顔で「あっち」という顔をしている。いい気分である。 |
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2局打って1勝1敗だった。その間に雨もあがった。毎日夕方になるとスコールが降るらしい。途中から他のスタッフはロケハンに行っていたが、もう陽光もあまりない。今日はこれで終了だ。帰路、夕焼けが美しい。 |
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