YogYakarta
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さっそく撮影がはじまる。
すぐに打ち解けて、クルマの中は大笑いである。

一行はジャカルタ経由でこのホテルに来たところである。まずは飯でも食おうと地元の小さな店に向かう。

店の前で地元の人にちょっと物乞いをされた。そのときのダイトウ夫妻の態度が毅然として物慣れている。さすがインドで撮影旅行をしてきただけのことはある。


入ると、大衆食堂のような店。ナシグッタとかナシグチャという、名前のとおりご飯にいろいろ乗せたものを食べる。グッタ煮とかグチャグチャっていうのは共通する言葉なんだろうか。

食後にぬるいスプライトを飲みながら今日の撮影について打ち合わせをしているのを聞く。なにしろ私は何の予備知識もないので、今回の撮影目的もスケジュールも知らない。こうやって聞いている間に大体の様子の把握につとめる。 何事もそうだが、旅先の撮影ではとくに「権限を持ってない者は口出ししないほうがスムーズに物事が進む」のである。

仕事については口出ししないのだけど、役にも立たないくだらないことについてはたくさんしゃべるのである。食事が終わるころにはすっかり打ち解けていた。

ダイトウさんはやんちゃ坊主がそのまま大人になったような人でまったく邪気がなくガハハと笑う。 ダイトウ夫人は重い機材を持ってダンナの助手をする健気な人。優しい雰囲気を持つ清楚な色白美人だが案外たくましいところもある。 ドンさんは目をきょろきょろさせて細かく気配りをしながらどんな交渉事も可能にしてしまう、実に有能なフィクサー。 ヲサム君は地元スタッフともすぐに打ち解ける天才的な親和性を持った若者。 そしてヤマモリさんは旧知の間柄だ。

初日から「ずいぶん前からの知り合い」みたいになって、もうクルマのなかは大笑いなのであった。


午後、早速撮影がはじまった。まずはボロブドゥールに行こう。

これは楽だ。これまで一人でさまよっていたので目指すところへ誰かが連れていってくれるなんてことはなかった。ロケ車の中は冷房が効いているし、ドンさんは出発前に必ず冷たい飲み物を用意している。至れり尽くせりである。


途中にあった古い寺 途中、通り道に古い寺があったので撮影のために停まる。
あらかじめ撮影予定だったのか、偶然見たら良さそうだったので急遽撮ることにしたのか、当日参加の私としてはよくわからない。なんとなく「あ、いい寺がある。クルマ停めて」だったような気もする。

変哲もないところなのだが道路に近いせいか案外観光地らしく、物売りが寄ってくる。絵ハガキやスライド写真を売りに来るものもあるので「カメラマンに写真を売るんじゃねえ」とダイトウさんは苦笑している。驚いたことに物売りは「センエン、センエン」とやってくる。よほど日本人観光客が多いのだろう。

撮影がはじまった みんな物売りを無視してそそくさと歩くのだが、ガムランに使うようなマスクが2枚で1000円だったのには、一同「ちょっと欲しい」と思うのだった。

寺院のそばに大きな樹があって、上から蔦が下がっている。「これなんて言ったっけ」「沖縄にあるよね」「ガジュマルじゃない?」「あ、そうだガジュマルだ」「へー、こんなとこにもあるのか」

子供たちはガジュマルの蔦にぶらさがってブランコのようにして遊んでいる。真似してぶらさがってみる。案外丈夫なものだ。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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