言わせてもらえば
ダメなバンドの見分け方。

最近人の悪口ばかり書いているので、このままでは碌な死に方もしないだろうと思うのだが、それはそれで便利に思ってくれる人もいるようで「ダメなバンドの見分け方を教えてくれ」と相談を受けた。そんなもの、聴いて気分が良くなるかどうかだけでしょうと答えるのだが、しかし一緒にライブを聴いているにも関わらず「このバンドは良いか悪いか」と質問されることもある。

そう言われて改めてチェックしてみると、個人の趣味がどうかということを超えて「酷いバンド」「酷いライブ」というものが存在するようだ。ちょうど先日、浮世の義理で高い金を払って行くことになったライブがそのよい例だったので、それを思い出しながら「ダメなバンドの見分け方」を書くことにする。

自分処のバンドを棚に上げて好きなことを書いていると思われては困る。FGODも気を抜けば誰かにとって酷いバンドで有り得る。常に自戒反省が必要なのであって、これは人様に言っているようで実は自分に対して言っているのである。うちのバンドのメンバーにとっても反面教師になるはずだ。

まず、わかりやすいところから言うと

● ダメなバンドは、ステージで無駄な音を出す。
酷いやつになると、セッティングの最中にその日に演る曲を練習しているのがある。これから聴いてもらう曲のネタばらしをするとはステージングの効果を下げる最低の行為だが、それをやっているバンドがままある。やってはならないことをやる理由はおそらく2つだ。ひとつは「自信のなさ」である。弾けるかどうか不安があるから、つい練習してしまう。つまりこれは準備不足/練習不足が原因だ。

もうひとつの理由は「客の前にいる」「ここはステージである」という自覚の不足である。
「自分がいま出している音が客に聴かれている」ことを真剣に考えたら、そこで変な音は出せないはずだ。客は練習とわかっていてもステージで出される音はすべて聞いてしまうのである。そのプレイが半端に終わったら、客は聴いただけ疲れてしまう。客を無駄に疲れさせるような神経で、いいステージができるわけはない。

以上、ステージで演奏以外の音を出すバンドが必ず駄目なバンドである所以だ。次に、駄目なバンドの特徴としては

● 客が嫌がっているのに音がデカい。
これは普遍的な真理ではない。HM/HR(ヘビィメタル/ハードロック)という、基本的に音はデカいほどよしとされるジャンルがある。またディスコやクラブといった、非日常的に音がでかいことによって成立している場所もあるし、DRUM'n'BASSといったドラムとベースだけ音が大きいことを好む(例えば巨大な音量でカーオーディオを鳴らしているような)音楽文化もある。

大事なことは「客が嫌がっているのに」という点である。駄目なバンドであるための最大の要素は「周りが見えない」ということだ。「独善的」「自分のことしか考えない」というプレイヤーに、アンプという「ボリュームを上げさえすればどんなに大きい音でも出る」という道具を与えたときどのような悲劇が起こるか。

エフェクタを多用して何をやっているかわからなくしてしまうギタリストも同類である。曲によって使い分けるならまだしも、ステージが始まった瞬間からノイズしかなく、音程もリズムもわからない、という自己陶酔ギタリストも多い。

断わっておくが、そういう音楽、そういうジャンルを否定するわけではない。客が喜んでいればそれでいいのである。問題は「客が嫌がっているのに」ということにつきる。デカい音がドラッグのように意識を麻痺させ、それを快感と感じる文化もある。そういう状況かどうか見分けることが必要だ。

ロックにはある種の攻撃性や秩序への挑戦が必須であるから、誰に対してもこのノイズがロックなのだと主張する人もいるかもしれない。しかし彼らが尊敬するロックバンドのライブであっても<わけのわからないもの>ではない。

可能性は、ある。

現代の商業ロックに不良性や暴力性という要素があるとしても、それは「プロレスのような」「飼い慣らされた暴力」「演出上の味付け」に過ぎない。客は自分の安全を確保されたうえで見世物のパンクを見に行くのであって、そこには精神的にも肉体的にもなんの危険も存在しない。

攻撃性や秩序への挑戦をテーマにするのならば、そのようなものを手本にしてもしょうがないのだ。もしもそれを超えて魂を揺さ振るような音楽を現出することができれば、そのような次元の話であれば、音がデカいなんてことは問題にならない。そのときは客は音量のことなど気にせず音楽に、その新しいメッセージの魔力に酔いしれるであろう。

そこまでの次元に達することを目指して「嫌われてもよい」という確信犯でやっているならば、立派なことだと思う。

ダメなバンドの見分け方は他にもいろいろある。

● テクニックだけで音楽ができると思っている。
ハイテクギター小僧がそのまま年を取ってしまったワンマンバンドによくある。<バンドも客も無視して一人で弾きまくり>という状態だ。よく聴くとバンドは完全に同じことの繰り返しでカラオケ化していることがわかる。バンドとソリストの間のコミュニケーションが完全に切れている。客は表面上の技巧に拍手することもあるが、よく考えると別にいい気分になったわけではない。

● リーダーが客に向かってメンバーをけなす。
こんなことあるのか?と思うだろうが、実際に起こるのである。私が見たステージではこういうのがあった。バンドチェンジ後、ギタリストが周りを確認せず曲を始めようとした。しかしドラマーにはセッティングの時間が必要である。ドラマーがそれを言って曲のスタートを止めるとギタリストは次のようなMCをした。

「よく写真を撮ろうとすると一人だけ遅れて来る人がいますよね。あれ、困るんだよねー。」

彼はドラムと自分がグループとして客に向かっていることを理解していない。客に向かってメンバーをけなすということは自分たちのバンドの価値を下げることであり、なによりも自分の人間性の低さをさらけ出す言動である。

人間性の低い人の歌を聴くのは、うれしいことではない。

他にもローディ(セッティングなどをする助手のこと/ボーヤ)の手際の悪さのせいで遅れていると客に言い訳したり、バンドの中の「上手い」プレイヤー(大体ギターかボーカル)が「下手な」プレイヤー(ベースかドラムかキーボード)の演奏に不満をもらしたり、ミキサーが良くないといったり、スタッフの悪口を言うプレイヤーは案外多い。ほとんどの場合、テクニックの可否に関わらずこういうのは「不愉快なステージ」になる。

● ダメなバンドは言い訳する。
「セッティングに時間がかかって練習ができなかった」「英語の歌は歌詞を間違えてもわからない」「練習する時間がなかった」「きょうはじめて合わせるんだけど」「あがってしまった」とにかく、ダメなバンドはよく言い訳をする。謙虚だから?いや、自信がないからあらかじめ予防線を張っているのである。だったら十分練習してから人前で演奏すればよいのだ。それだけのことである。

演出上「今日しか聴けない」「ここでしか聴けない」と客に「貴重な体験であること」「特別サービスであること」を感じさせるMCとは意味が違う。こちらは客をいい気分にさせるために喋っているのである。自分の失敗を予防するためのコメントと違うことは、客が知っている。


まとめて言えば、簡単なことである。ダメなバンドとは次のようなものだ。

● 練習不足であり、自信がない。
● 自分の失敗に敏感すぎる。
● 自分のことに夢中で、周りを見る余裕と判断力がない。
● 仲間/スタッフに対する感謝がない。
● 客の前に立っているという自覚が足りない。
● 客の目に曝されているものは自分という人間の全体である ということを知らない。

いいバンドと言われるためにはこの反対のことをすればよいのである。舞台というものがいかにトータルな人間性を問うものかわかる。他人の問題ではない。自戒と努力が必要だ。



(2000年8月2日)





c 1999 Keiichiro Fujiura

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