ふじうら旅日記

3日目 その4






ミンジュ、だんだん本領を発揮。
こいつはデンジャラスポリスマンだー。

DAMCHEN RESORTに帰ってくると、パンを焼く匂いがたちこめていた。このホテルにはパン窯があって、自分たちでパンを焼き周囲の家庭にも売りに行っているのだそうな。

庭は広くて、すぐ河原に面している。プナカのゾンではないが洪水になったらすぐ水浸しになりそうな近さだ。バナナの木が生えていて、実もなっている。プナカはバナナの産地なのである。小ぶりの実はまだ青く、渋そうだ。

入口の近くに小さな建物があって、デッサンの狂ったカウボーイの絵が描いてある。どうやら「アメリカン」を表わしているらしい。ここはこのホテルのBARというわけだ。ビールが呑みたくなったのでミンジュを誘ってこのバーに行ったのだが、まだ開いていない。従業員はいるのだが、どうやら夜中にならないと開業しない様子だ。

店内を見ると踊るフロアもある。建物自体はプレハブに色を着けた程度の簡素なものだが、ともあれこのホテルにはバーカウンターとダンスフロアがあるわけだ。

肩透かしを食ったミンジュはなにか燃えるものがあるらしかった。「オレがこれからマーケットに行って女の子を誘ってくるから、今夜このバーで踊ろう」。ヲサム君は「冗談じゃなくて、こいつホントにやりそうだからなあ」とやや警戒している。「いいねえ。でも今日はよそう」「いいじゃないか。デンジャラスナイトを楽しもうぜ!」

まったくこいつはデンジャラスなポリスマンである。様子を聞くとミンジュは新婚で、新妻をティンプーにおいてこのバイトに来たらしい。ティンプーで遊ぶと奥さんにばれてしまうので(警察官だから地元で遊びにくいのかもしれないし)この旅の間に密かに期するところがあるようだ。

「まっ、ティンプーに帰ったら飲みに行こう。おごるよ」とヲサム君はミンジュをなだめている。が、ミンジュはあいかわらず「デンジャラスナイト!」と叫びながらニタニタしている。

川辺近くに石造りの椅子があってひんやりといい気持ちだ。BARにふられたので、この石椅子に四人座って缶ビールを飲む。銘柄は例のごとくTigerだ。

そこへレストランで働いている娘が部屋の鍵を取りに来た。
「なんに使うの?」
「温水器のスイッチを入れるのです」
私の部屋とヲサム君の部屋に入ってまた出てきた。後で確認するとバスルームに温水器のスイッチがあった。客があるときだけ電気を入れるらしい。

能力が低いのでうまくお湯をためて使わなければならない。ヲサム君は翌日「お湯が出なかった」と言っていたが、私の部屋では量は少なかったがとりあえずお湯は出た。なにかしらコツがあるようだ。

川辺の石椅子
食事ができた。部屋は暗く、ロウソクが燃えている。野郎四人で食べるのに、なんだこのムードは。しかも料理は上品。配膳も高級。さきほど鍵を取りにきた娘が丁寧にサーブしてくれる。「なんかあの子、品がいいよね」「このへんの良家の娘かな」。ゲストブックに記帳を求められた。日本人もけっこう来ているなあ。



食事の後、ヲサム君と少し話す。こうやって落ち着いて話すことは東京でも少ない。

ヲサム君はプナカの佇(たたず)まいを見て、ブータンに対する見方が変わったようだ。「ミンジュみたいな警察官がいるってことは、若者はずいぶん変わってきてるんでしょうね」。

そのあたりから四方山話になる。

ヲサム君は仕事を離れてひさしぶりに浮世離れした話をして「もっと勉強しなくちゃ」と思ったようだ。彼がそう感じたとすればサラタビにも意味があったということだろう。

私にとってもそうだ。有休放浪から帰った後、仏像の本などを少しは読んだのだがそれは南アジアやインドのものでブータンはまた違う。本質を知らないから応用が利かない。難しいものだ。

ベッドの上のキリギリス
ベッドを見ると、キリギリスのような(というか、カマドウマの大きいのみたいでもあった)虫がちょこんと乗っていた。

外もまた虫の集(すだ)く声である。





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