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入口の村に戻った頃、雨が強くなった。村長の家でしばらくぼーっとしている。南国の家に降る雨というのもなかなか良いものだ。 竹の屋根から雨水がつたって落ちる。森の緑薫は濃くなり、椰子の葉はかすかに煙って見える。 |
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近所の子供たちもやることがないので、向こうの家のソソロに集まって話したりふざけたりしている。子供はみな眼が大きく可愛らしい。不思議と皮膚が汚かったり、不潔な感じの子供はいない。泥で汚れていることはあっても、みな健康そうだ。 |
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バドゥイの大人、とくに白バドゥイの骨格は私たちとはかなり違う。とくに目立つのは顎(あご)が大きく逞しいことだ。眼もいくぶん窪んでいて「原人」という面持ちがある。 ここは人類発祥の地、ジャワ原人の発掘された島である。じっと見ていると「古代の骨格が生き残っている」という感じがしてくる。 |
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晴れた日には、女の子たちは広場の土に円をいくつもかいて「けんけん」をして遊んでいた。「けん けん ぱ」というあれである。 |
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一緒に遊びたかったが、ソソロに上がるとき登山靴と厚い靴下を脱いだので、もう一度履くのもおっくうだし、この靴であそこを跳ね回ったら描いた円を踏み消してしまいそうだ。 サンダルでもあれば参加するのになあ、と思ったものだ。 |
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ふと見ると、村長の家の広場側になにやら表示が出ている。 「これ何でしょうね?」 とヤマモリさんに話しかける。ひまなのである。 「さあ?」 「なんとなく、『村長の家』 とか 『バドゥイ出入国管理』 とか書いてある感じですね」 |
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ドンさんに聞く。 「これは 『ゴミはゴミ箱へ』 と書いてあるのです」 なあんだ。それにしても、ずいぶんいかめしい看板なんだけどなあ。ゴミは重罪なのかな。 |
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後になって考えれば、バドゥイに文字はなくほとんどの人はインドネシア文字も読めないそうだから、この看板をこの村の人は理解できないのだった。ますます謎の看板である。ヤマモリさんの説は「インドネシアの役人が掲示したのではないか」。なんとなく尊大な感じのする看板だったから、あるいはそうかもしれない。 |
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