Baduy
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バドゥイ最後の夜。
考えることは多いが、答えはない。

その夜はパマレンタ村長の家に泊まった。バドゥイの村に慣れたせいか、外界が近いせいか、一同昨夜よりもくつろいでいる。村長の居間にはカレンダーが貼ってあってそこに美人の写真がカラー印刷されていた。
なんてことはない、田舎の家によくある光景なのだが、電気もない村とその美人写真が妙にそぐわない。外部からの美しい侵略者、というように見えなくもない。

ソソロにくつろぐ夜 私はバドゥイの文化にすっかり共感を感じてしまって、この文化に向かって押し寄せる外界の誘惑に憤りに似たものを感じていた。とはいえ、自分自身その外界からの侵略者にすぎないことも承知している。それを考えるとなんだか疲れたような、答えのないような気持ちになる。


バドゥイの村には便所はないと言ったが、実はこの村にはひとつある。それはドンさんが指導して作ったものだ。

バドゥイの寿命が短い理由のひとつは衛生の悪さである。医者もいないので病気になったら呪術に頼るしかない。ドンさんはバドゥイの純朴さを深く愛しているのだが、同時に彼らが無知ゆえに病気になり死んでいくのを改善したいと考えているのだ。


ドンさんにはドンさんの基準で「これはやるが、これはやらない」という区別があるのだろうが、そういう改革は危うい行為でもある。そういう「小さな親切」が取返しのつかない破壊につながるのではないか。バドゥイの文化/文明というものは文明国の市民感覚でいじってはいけないものだと思えてならない。


バドゥイの印象のうちもっとも強いものは「含羞」である。別な言い方をすると「笑顔でコミュニケーションをとることをしない」のだ。それすら「恥かしい」と思うほどナイーブなのらしい。外界との接触をほとんど経験しない部族は、胎児のように傷つきやすい。



今朝早く起こされたのでみんな眠そうだ。広場を歩く鶏を見ても「こいつらがまた明日の朝うるさいんだろうな」という顔でむっとしている。


持ってきたポケットボトルのウィスキーを飲みながら、ヤマモリさんと対局する。この日は一局だけ打って、勝った。通算6勝3敗となる。


入国の記帳をしたその場所で、昨日と同じサロンを身体に巻いて眠る。このサロンもナシナ夫人にお金を渡して(いくらだかメモが残ってないが)購ったものである。




c 1998 Keiichiro Fujiura


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