Baduy
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村長の奇妙な行動は、つまり
武家の商法、ということであったか。

バドゥイの村に別れを告げる朝が来た。もう山歩きはない。傘や蚊取り線香を村長や村の人にプレゼントする。

村に入る道はこの家の屋根の下を通っているので、ソソロに座っていると、いろんな人が通りすぎる。関所のようなものだ。

椰子の殻を使った細工を売る男が来た。見ると他にも蔦で作った小物入れなどを持っている。自分で作って売る行商人らしい。椰子の皮の英文字を貼り込んだ、小さなネームプレートのようなものを持っていた。それは何だと聞くと、自分の奥さんと子供の名前らしい。サンプルではなくて「これを買わないか」と言う。

他人の名前の書いてあるネームプレートなんか売れるかなあ。英文字はたんなるデザインとしてしか意識されていない感じ。



「蔦で作った小物入れ」を干している。
ミネラルウォーターの瓶を入れるのにちょうどいいので、蔦で作った小物入れを買う。肩から掛けると、ほんとうに素朴だ。後日ジャカルタのホテルでヲサム君と共にこれを下げていたら「どこの山出し?」という眼で見られたくらいのものだ。

売れそうもないネームプレートもひとつ買って帽子に付ける。これは彼の息子の名前だという。


出発前の間、とくになにもすることはない。ダイトウさんは山刀がうれしいので、持ち出してなんか切るものはないかと探している。家を切るわけにもいかないので、傷をつけても大丈夫なものを探してはえいやと切り付けて、「うむ、よく斬れる」とご満悦だ。


その様子を見ていたら、パマレンタ村長が不思議な振舞いをした。奥に入って自分の山刀を持ち、ソソロに座っていた私の傍にそっと置いたのである。


「?」

どうも、これを買えと言っている様子だ。

ダイトウさんとヤマモリさんはそれぞれ山刀を買った。おそらくバドゥイにとって相当の価格だろう。山刀を持っていないのは私とダイトウ夫人とヲサム君だが、どうもこいつがいちばん買いそうだと目星をつけて商談に及んだらしい。とはいえ、率直に「これを買わないか」と言うことまではできないようだ。


あまりにも不器用な売り方におかしくなったが、本人はいたって真面目な顔をしている。ヤマモリさんたちもその様子を横目で見てにやにやしている。


「どうしましょう。欲しくはあるのですが、私はこれからまだ旅が続くし、持ってもいけないのです」
「ああ、じゃあ先に持って帰ってあげるよ」


というわけで、その山刀を拝見する。3人の白バドゥイの若者が持っていたものより短く、こしらえも幾分粗末だ。
「どうせなら白バドゥイのものを買っておけばよかったなぁ」

しかしこれも縁だ。買うことにした。値段を聞くと60,000rp(852円)だという。本人も、先の二振りに比べるといくらか落ちることをわかっているのだろう。



白バドゥイの女の子
出発までの時間を使って村の子供たちを撮影していたら、子供をつれた白バドゥイの一行が現われた。

白バドゥイの子供を見るのは初めてなのでダイトウさんは勇んで写真を撮る。いくらかカメラを避ける様子もあったが、無事に撮影終了。男の子のように見えたが、女の子だというので一同ちょっと驚く。




c 1998 Keiichiro Fujiura


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