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今晩の泊りはガジェボ村のナシナ氏という家だ。バドゥイで三本の指に入るというお金持ちということで、私たち全員が寝ることのできる大きな居間がある。白バドゥイの若者たちは入口の上がりかまちに腰掛け、上品なお婆さんが染め上がった糸を干していた。 |
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先ほど娘が織っていた布と同色の糸である。このようにして自分たちで染めた糸を自分たちで織って暮らしているのだろう。 黒バドゥイの衣服は基本が黒で袖先や裾だけが青い。干してある糸の色も、その比率どおりだ。 |
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ご主人はバンドーンの町に「商談」に行って留守だという。バドゥイと、商談という言葉が似つかわしくないので、一同顔を見合わせる。 塩魚などバドゥイの生活に必要でどうしても自給できないものについては物々交換することは許されているらしい。ナシナ家は黒バドゥイなので、外部からそういう物資を仕入れ白バドゥイの生活を支えているのだ。 |
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三人の白バドゥイの若者はジュリ、ジャマ、サプリという。だんだん彼らの表情と視線を合わせない意味が理解できるようになってきた。これは「含羞」なのである。「はにかんでいる」といってもよい。 ダイトウさんがしきりに話しかけたり、腰にぶらさげている山刀を見せろといったりしていると、最初は恥かしがっていたがだんだん打ち解けてくる。 |
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黒バドゥイの刀と白バドゥイの刀は柄(つか)のところの形状が少し違う。このように細部にわたって「白バドゥイだけに許された格式」が定められているようだ。 |
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ようやく落ち着いて、遅い昼飯を食べることになった。食事の仕度はトトが担当してくれた。食事の場所は12畳ほどの大きな居間。その奥に土間になった台所がある。 メニューは椰子の葉に包んで蒸した米、塩魚(ソルトフィッシュ)、これは干し魚でバドゥイの大好物、それから鶏と野菜の炒め物など。バドゥイにとっては大変なご馳走である。 |
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ドンさんが熱心に誘ったこともあって、はじめは非常に遠慮していた白バドゥイの三人も我々と一緒に昼飯を食べることになった。バドゥイと輪になっての食事である。はにかんだような視線が「美味い」と言っている。小柄な身体だが旺盛な食欲だ。 |
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