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突然、背後から男の大きな声に呼び止められた。何を言っているのかわからない。そちらを向くと白い服を着た男が立っていた。「客か?」とその顔は言っている。 そうだ。 そうか。まあ座れ。 するとどこからか若い女性が現われ、メモを持って注文を取ろうとする。一言も通じない。困惑した彼女に「ビンタン」と言ってみる。ビンタンはない。そうか。しかし、なんとかがある。なんとか?女性はこっちこっちと手招きをした。見るとビールらしいものがある。アンカービアーだ。それでいい。 |
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魚は?水槽を見に行った。海の中に柵が仕切って、金網が沈めてある。適当な魚を選ぶ。「ラプラプ」あ、これがラプラプか。サンボアンガで食ったな。白身のうまい魚だ。それにしよう。 男がなにかを言う。なんだろう。あ、そうかそうか。ええと「焼いてくれ」。通じない。どうすればわかるのだ。魚焼網の手まねをするが、通じない。そこで男と台所へ行く。グリルの道具みたいなものがあったので、それを指差す。 よしわかった。待っていろ。 |
| そのうちようやく料理が出てきた。ラプラプの焼き物(カラシソース付)に野菜炒め、それにサラダと飯だ。うまいうまい。滅法うまい。考えたら、これがこの日初めての食事であった。アンカービール2本と食後のお茶を入れて、24,750rp(351円)。 |
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レストランの窓から眺めると、ここは細長い入江のごく奥にあたるようだ。左右はどちらも長い長い海岸線になっていて、両翼をすぼめたように前方に向かっている。もう日が暮れたのにめぼしい灯りもない。わずかに右手のほうが少し明るい。 あのあたりが港なのだろうか。とすれば相当の距離のように見える。 |
| さて、そろそろ帰ろう。タクシーを呼んでくれと言うと「私が送ろう」とイルハムが言った。いいのか?いいとも、そのかわり写真は必ず送ってくれよ。ニッサンのトラックの助手席に乗ってホテルまで帰った。レストランまでのタクシー代は4,500rp(63円)だったので、「これはお礼だよ」と10,000rp渡すと「いいのか?わるいな」と彼は何度も繰り返した。 |
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ロビーに帰るとサラムがいた。 「魚はうまかったか?」 「ああ、うまかった。ありがとう」 君にもお礼しなくちゃねという間もなくサラムがまた言い出した。 「これからガールフレンドとカラオケにいかないか」 まったくこの男は。 「いや、もう疲れたから寝るよ」 「そうか。明日の予定は」 うるさいなあ。なんて取り巻きの下手なやつなんだろう。 「まだ決めてない。じゃ、おやすみ」。 こうして、サラムは私から1ルピーも得ることがなかったのである。 |
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