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「ボロの丘」へ着く頃、雨が降りはじめた。 機材を抱えて撮影場所を探すと、山上の休憩所には屋根もあってロケには申し分ない。売店があったのでコーラを買ったりして仲良くなり、撮影に使わせてもらうことにする。 |
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ボロの丘はプランバナンを見下ろす位置にある。塔の群れは森の中に浮かんでいたが、雨とともに靄(もや)の中に姿を消した。インディジョーンズの「城」のようだ。 雨風が強くなり、休憩所の床まで水が入ってくる。しかしここから撮れる絵は良さそうなので、雨待ちにする。 |
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売店の若者が日本語を習っているというのでヲサム君はさっそく教えはじめる。このあたりがヲサム君の偉いところで、現地の人とすぐ親しくなる。撮影車の運転手もヲサム君だけは「ヲサム」と名前を呼んで親しげだ。 若いから話しやすいということはもちろんあるのだろうが、それにもまして彼の性格や雰囲気、言動がそうさせているのだろう。その親和性には素晴らしいものがあった。 |
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ダイトウ夫妻は天気を見ているし、ヲサム君は日本語教師をしている。残ったヤマモリさんと私は当然、碁を打ち始める。 この山上で四方驟雨に包まれて囲碁を楽しむのは、まるで仙界のようで心地よい。 序盤優勢な碁だったが、うかつに黒石が死んで形勢不明。しかしワリコミから白石が切り離されて黒勝ちとなった。これで4勝1敗である。 |
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隣にレストランがあったのでコーヒーを頼むと3人も女性がやってきた。 「ハーレムだね」 お揃いの白シャツに黒スカート。聞くとソロからここに働きに来ているという。ということは、ジョグジャカルタとソロの間だけれど、もうソロのほうに近いのかもしれない。 |
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なんだか汚いものに値段をつける話になる。 「血便は?」 「ジ価」 まことにくだらない。 |
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雨が弱くなって遠山の稜線が出てくる。素晴らしい山だ。が、麓を無粋な高圧線が走っている。 「あの2つのタワーが興醒め」ダイトウさんが苦々しげに言う。 |
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