ふじうら旅日記

2日目 その3






とりあえずタクツァンはクルマで行ける場所から見た。
これがサラタビのスタイルかー?

パロに着いたら「翌日はタクツァン僧院を見るため山登りをする」というのがレギュラーなコースらしい。しかし、今回の私たちは祭りのスケジュールを優先したために明日はパロを離れてワンデュポダンへ行かなければならない。

タクツァン僧院はパロ第一の聖地であり観光の目玉でもあるので、「遠くから見られる場所があるが行かないか」とカルマが言う。

もちろんOKだ。タクツァンを見るためには1時間ほどトレッキングしなければならないらしいが、それでも僧院そのものに行けるわけではない。近くの山から見るだけだという。それなら下からでも見ることができれば「五十歩百歩だろう」とヲサム君と合意する。

このあたり「たいへんなことはキライだけどおいしいところは欲しい」という感じでまことにサラリーマンらしい旅の態度である。

川を右に見ながら上流に向かって進む。美しい並木道がある。この国の自然はほんとうに美しい。左手、稲穂の向こうの高台に寺院が見える。「あれはキチュ・ラハンといってパロで一番古い寺院なのだが」とカルマが言う。「今日はVIPが来ているので近づくことが禁じられています」。走るクルマの中からしばし眺める。

遠くタクツァンを望む
山道の途中のような場所にカローラを停める。「ここです」。

降りてみると確かに、遥か遠くの岩壁にタクツァン僧院が見える。
「これでタクツァンも見たな」
「そうですね」
楽して儲けるサラリーマン二人はなんとなく納得する。

ここは聖地につながる場所らしく、経文を印刷した旗「ダルシン」が数本、風に揺らいでいる。

私はハーブが好きなのでその辺りの草に触ったり匂いを嗅いだりする。

ミンジュが近づいてきて、「この草は鼻にいいぞ」と言う。
「どうするんだ」
「鼻がつまったらこうする」
と草を折って鼻の穴に詰め込んだ。ヲサム君は鼻があまり良くない。ヲサム君、鼻に効く薬草があるってよ。と呼んで、鼻の穴に草を詰め込んだ。

馬鹿面の二人 鼻の草に注目
Grass in Nose
遠山のほうを指差しながら「あの山の道はチベットに続いているのだが、中国が占領してからは国交がなくなった」などという話をカルマから聞いていると、突然ミンジュが「お、〇〇が聞こえる」と言い出した。「なに?」「ほら、この音」とミンジュは言うので耳を澄ましてみるのだが、何も聞こえない。

あえていえば風の音と、少し混じる鳥の声くらいだ。どうやら山で鹿の一種が鳴いているらしい。ミンジュには聞こえるが、私には聞こえない。身体に残された自然の量が違うらしい。


廃墟となった旧城へ
その後、旧戦地という荒れたゾンへ行く。ルーサー・ドック・ゾンと言ったように思う。カルマの英語がまだよく聞き取れない。

ここは荒れ果てた山城で、廃墟と化している。床も庭も血塗られているという。「強者どもが夢の跡」という風情だ。ブータンは長年にわたりチベットとの抗争で血を流しつづけたらしい。



ガイドは二人とも祭りの時期だけのパートタイム。
ミンジュは普段は警察官なんだって。

夕刻になったのでパロの町へ戻ってくる。ひとつしかないメインストリートの一角のレストランへ。ここは街道沿いの町で、遠くからのトラックが前を通っていく。インド、チベット、ネパールからのトラックが物資を降ろしていく場所のようだ。

商店の入口
「Tourist Restaurant」という店に入ってビールを選んでいたら、思いがけず上手な日本語で話しかけられたので驚く。

言葉の主はこの店の従業員。いまはここのレストランで働いているが客があればガイドもするのだという。このくらい流暢な日本語ならきっと仕事もあるだろう。

ビールはインドやマレーシアからの輸入品、コカコーラはシンガポール製。

マレーシアのTiger BeerもインドのBlack Labelもどちらも70Nu(182円)だが、Tigerは缶でBlack Labelは大瓶だからTigerのほうが少し割高。そのせいかどうか知らないがカルマもミンジュもTigerを飲んだ。

酒を売る店
料理はブータン名物エマダツィ、モモ(チベット餃子),野菜スープ、各種カレー。どれも美味い。エマダツィについては 代々木日記に詳しく書いたのでそちらを見てもらうことにしよう。モモは小籠包の中に唐辛子、ジャガイモ、チーズ(つまり、ケワダツィ)を入れたようなものだった。

話を聞くとカルマもミンジュもエトメトの正社員ではなく、祭りの間だけのパートタイムガイドらしい。カルマは普通はトレッキングガイド、ミンジュはティンプーの交通担当の警察官だという。
「おまわりがバイトやっていいのか?」
「国益だから」
そういう理屈らしい。ブータンの基準はよくわからない。「ミンジュの理屈」なのかもしれない。

ホテルに帰って風呂に入り「ちょっとぬるいな」と思ってお湯のコックをひねったら、いつまでも熱い湯が出てこず、かえってどんどん冷たくなって、入っていられなくなってしまった。哀しい。湯沸し機の能力が低いようだ。

今晩はカルマもミンジュも私たちと同じホテルに泊まる。明日は9時出発、ドチュラ(峠)を越えてワンジュポダン行きである。





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